切り札出すタイミングは空気を穴があくほど読め

うら若き頃、いわゆるガールズバーで働いてた時の話。

いやはや、ガールズバーとかスナックとかって面白いですよね!いろんな境遇やいろんなノリの人が来るし。特に自分が働いていたところはスポーツバーっぽいところだったので、グイグイよいしょ!的な感じではなくスポーツ見ながらまったり喋れるような店で、働いてる子もフツーの女の子ばっかり。
で、自分はよく、大大大好きな元日ハムの稲田直人ユニフォームを着て勤務してたので、野球知ってる人には「渋すぎるだろ!」と突っ込んでもらえておいしかったし、好きなプロ野球Jリーグ・プロレスの話などなどいろいろできたし、スポーツ関係なくいろんな人といろんな話ができて楽しかったです。もちろん楽しいことばっかではないんだけど、人と喋るの好きだし、知らない話も聞くの好きなんで、総じていい記憶しかなくて。

 

そんな中でもマジで今でも忘れないほどしんどい回がありまして。

ある日の体験入店で来たのが、眠くない夢眠ねむ的な高身長美少女。

顔も良いんですけど何よりトークが面白くって、ずっと「この子凄すぎるな!?」と圧倒されまくり。会社の草野球チームにプロ野球選手来ちゃったみたいな感じ。キャバクラにいたほうがちゃんころ稼げるんじゃない?ってくらいのノリ。

そんな矢先、ウェイ系サラリーマンが二人来て、「面白い話してよ!」というクソバカつまんないフリをしたことがあって。私は自分の中での鉄板ネタとしてある「20歳年上のおじさんと付き合ったことありますよ~」(って過去形で言ってるけど全然付き合ってるし何なら今夫なんだけどそこらへんは濁す)で行こうと思ったんですけど、「じゃあそっちの子から!」でさされた体入おもしろかわいいニセねむがさらっと。

 

 

「あたし、実家キャバクラなんですよ~~」

 

 

はぁーーーーー!??!??!?!?!

おまえ!!!!!!!!!!

それは禁止カードすぎるだろ!!!!!!!!!!

 

初手で出してくんなよ!!!!それ全然強くないと思ったのか!???強いだろ!!!!どう考えても強いだろ!!!!!草野球で初手ナックル投げてくるなよ打てるわけないだろ!!!!!!!考えろよ!!!!!!!!!!

もちろんバカ大うけのサラリーマン2人。「マジで!?」「マジですよ~小さいころから遊びに行って怒られてましたw」「とか言って地方なんでしょ?」「いや東京の〇〇です」「やば!めっちゃすげーじゃん!」←一応伏せるけどマジでスゲー場所だった

 

ヤバ!!!!!!!!!!!!!

 

夏の、冷房がんがんに効いた店で、全身の穴という穴から変な汁が出た。20歳年上と付き合ってる人間より、実家がキャバクラの人間のほうが希少で面白いに決まってるだろ。知らんけど。知らんけど!

そうだ!もしかしたら勝てるかもしれない!ここはガールズバー!おじさんたちが喜ぶようなネタなら、勝ちがあるかもしれない!ひとしきり盛り上がったサラリーマンに「君は?」と振られた自分は精いっぱい焦りを隠した。

 

「えーっなんだろう?20歳年上の男の人と付き合ったことあるくらいですかね~?w」

 

もうね、必死。いかにも「そういえば大したことなくて、今ふと思い出したんですけど~w」みたいな感じを醸し出す。そんな悪あがきでなんとかするの無理すぎるだろ、とは思いつつも、ワンチャン!ワンチャンいけないか!?20歳年上と付き合うってまあまあ希少ではあるぞ!どうか?いけるか?

 

 

「へぇ」「モノ好きなんだね」

 

 

・・・・・・・・・・。

 

 

時が止まった、と思われた。
実は結構ウケたのか、思ってるよりも滑ったのか、もう今ではちゃんと思い出せない。あの一瞬の静寂、空間に消える生返事、が、見えた。フっ……と消えたのが見えた。

そのあとそれなりに会話はあったし、でもすぐニセねむの実家トークに戻ったのもはっきり覚えている。どうやったって覆せないゲーム。あのカードを出された瞬間、俺の負けは確定したのだった。

どうして順番を考えてくれなかったんだ…後に喋る人が大滑りするのが目に見えるほど強いネタ持ってるなら順番を譲ってくれよ…その場の空気だって凍らずに済むのに…

いや、待て。もしかして逆だったら?わざと滑らせるつもりで喋っていたら?その場の空気よりもう一人の株を下げることを優先したとしたら?

「あれがキャバクラ英才教育か…」

閉店後、心の中で甲子園球児くらい大泣きしながら、店中の煙草の灰まみれになった小さい灰皿かき集めて、きれいに洗い流してから帰ったのだった。

 

 

ちなみにその子はその日以降見ませんでした。
うんまあ、そうだよね。

 

 

 

お題「出会ったすごい人」